なるほど証拠隠しのやり方とは、かくも多様なものか。
脱税を摘発する税務調査官の手記を読み、そう思った。ある中華料理店の店主は調査官の訪問を受け、あわてて印鑑を小麦粉の中に埋め込んだ。売り上げをごまかすための架空名義の通帳がばれぬように。
通帳をポリ袋に入れてトイレの水槽に隠す手口があり、座布団の中に債券証書をしのばせるやり方がある。究極の手はやはり焼却だろう。ある居酒屋店主は毎朝、前日の売上伝票を自宅の庭で燃やしていた。
いずれも眉をひそめたくなる話ではあるが、こちらの証拠隠滅も悪質である。選挙管理委員会の職員が、投じられた票を自宅に持ち帰って焼いたというのだから。
ところは滋賀県甲賀市である。昨年秋に衆院選滋賀4区の開票をしていたが、どうしても数百票足りない。開票の遅れを避けるため、白票を水増ししてしまった。しかし作業を終えて片付けてみると、未開封の投票箱が見つかった。ごまかしがばれぬよう、消してしまえとなったようだ。
頭をたたき割る代わりに頭数を数えるのが、民主主義だと言われる。暴力の代わりに多数決を、という意味である。今回、白票扱いされた末に焼かれた票を投じた有権者にとっては、頭を割られたに等しい。
職員たちは言えなかったのだろうか。「遅くなります。すみません」という一言を。そして次は「すみません。見つかりました」の言葉を。票と一緒に灰になってしまった大切なものを思う。

 天声人語より