「ワズカモ山離ルレバ、スナワチ、オツ」。わずかでも山を離れるとライチョウはすぐに死ぬ。
そんな調査報告が加賀藩の文献に残る。
ライチョウの飼育のむずかしさは江戸時代から知られていたようである。
その難題にいま環境省と全国5施設が挑む。生育環境が悪化して2千羽以下に減ったと推計され、人工繁殖の乗り出した。22羽が孵化し、生き残っているのは12羽。最も早く生まれ、まもなく生後3カ月を迎えるヒナを富山市ファミリーパークで見学した。
頭をせわしくふり、跳ぶように駆け回る姿が愛らしい。見学はモニター越しだ。「衛生管理には特に気を配っています。飼育員は専用の服に消毒した手袋を着け、長靴をはきかえます」と石原園長は話す。
人工?殖の道はなお手探りだが、凛とした野性の姿はつとに知られる。季節ごとに羽色を変え、夏は岩山にまぎれる褐色に。冬は一転、雪の白さを全身にまとう。古来「霊長」とあがめられてきたのも、生育域の広がる富山、長野、岐阜3県がそろって「県鳥」に指定したのも、むべなるかなと思わせる。
「生きた化石」とも「氷河期の遺物」とも呼ばれる。氷河期に大陸から日本列島へ渡り、氷が解けて取り残されたといわれる。
太古の山々を知り、岩や雪に化け、気の遠くなるほど長い歳月を生き抜いた命である。それがいま絶滅が懸念されるほどに減ったとしたら、地球は一体どれほど劇的な異変のなかにあるのだろう。

 天声人語より