アイルランドの言い伝えでは妖精や幽霊、魔物はありふれた存在である。
異界を抵抗なく受け入れる文化に、ハロウィーンの源流がある。死者が帰って来るといわれる収穫期、幽霊に変装して仲間のふりをし、食べ物を供えた。19世紀に移民を通じて米国に伝わり、盛んになった。
それがここ数年、日本でにわかに広がっている。今年の市場規模はバレンタインに迫るとも伝えられる。不気味に笑うカボチャの橙色は、すっかり季節の色になった。
もっとも楽しみ方は本場とやや違うようだ。欧米では主に子供の行事で、近所を歩いてお菓子をもらう。加えて日本流は、大人もはしゃぐ。
宗教社会学者の石井研士さんによると、戦後定着した行事には社会の変化が映し出されている。クリスマスは、台頭した核家族が幸せを確かめる機会になった。バレンタインの流行は、女性が消費の担い手として現れたのと軌を一にする。ハロウィーンはどうだろう。
本番だった31日、都内で目にしたのは、さながら路上仮想大会だった。魔物やヒーローに扮した彼らが言うには、自分ではない何者かになれるし、変身した者どおしの一体感が得られる。お手軽に使える魔法の力。それを次代が欲しがっているのだろうか。

 天声人語より