アベノミクスに欠けるもの
アベノミクスは、脱デフレ、景気回復からさらに日本経済を力強い成長軌道に押し上げようとする。しかし、そもそも景気が十分に浮上しない最大の原因は、日本経済はすでに資本も生産能力も過剰になっている点にある。日本社会は、少子高齢化、人口減少へと向かっている。こうした社会においては、市場はさして拡張しない。つまり、モノをいくら生産しても、それを吸収するだけの十分な需要が発生しないのである。
とすれば、いくら異次元の金融緩和によって資本を供給しても、貨幣はもっぱら金融市場に流れるであろう。結果として、日本経済全体が、ますますグローバルな金融市場の不安定さに巻き込まれ、投機的資本の思惑に翻弄されることになる。
重要なことは、ただやみくもに貨幣を供給することではない。その貨幣をグローバルな金融市場の投機筋の餌にすることではなく、逆に、その貨幣をグローバルな金融市場の投機筋から守ることなのである。
そのことは何を意味するのだろうか。「異次元的に」供給される資金を、国内の長期的な産業基盤や生活基盤として国内で循環させることこそが重要である。しかも、これらの長期的な産業基盤や、少子高齢化に向かう生活の基盤づくりは、決して即効の利益を生み出すものではない。とすれば、それを市場競争に委ねるのは無理なのである。政府が、一定の将来ビジョンのもとで、その資本の行き先をある程度、指示することが必要となるであろう。短期的な市場の成果主義ではなく、長期的な公共政策こそが求められているのだ。そこで初めて、異次元的な金融緩和も意味をもってくるであろう。
われわれは、一刻も早く、貪欲で即物的な金融中心のグローバル資本主義から決別しなければならない。

 異論のススメより-----佐伯啓思