先入観による妨げが無いほうがいい。
時の人になった小保方晴子さんは、先入観や常識に縛られない人のようだ。つくりだした万能細胞は、その方法の単純さで専門家を仰天させた。紅茶程度の弱酸性の液に浸すだけといい、初めはだれにも信じてもらえなかったという。
権威ある英科学誌も最初は論文を突き返した。その際につけられた「何百年にもわたる細胞生物学の歴史を愚弄している」という激しい意見は、遠からず伝説となろう。それほどに常識を覆したことの証である。
造物の神様が生命の森にこっそり隠したカギを、先入観に曇らない目が見つけた。そんな印象だ。つらいときも泣いた夜も、今日一日、明日一日だけ頑張ろうと思ってやってきたという。
新発見には運や偶然もあろうが、物理学者の寺田寅彦は言っている。「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」。快挙を讃えつつ、努力の総量を思ってみる。

 天声人語より