火の神様は踊らなかった
国産の新型ロケット「イプシロン」の打ち上げは、発射19秒前に中止になった。鹿児島の現地で、中継画面の前で、大人も子供も落胆を隠せない。「3、2、1、0」に続いて歓声は起きず、ため息が残った。
自由研究なのだろう、夏休みの宿題の仕上げに来た小学生もいたようだ。残念だったが失敗したわけではない。トラブルを超えることで、世界注目の技術はより確かなものになると信じよう。
小欄も自由研究にならって、日本のロケット小史をひもといてみた。戦後の貧しさの中、わずか23センチのペンシル型を水平に飛ばしたのが始まりだ。朝日新聞は「赤ん坊ロケット成功」と書いた。以来58年、よくぞここまでの感にうたれる。
地球の重力を振り切るには、計算上は秒速11.2キロもの「脱出速度」が要る。煙を引いて天に昇る姿は、昔の人なら竜と見るだろう。人工衛星などを宇宙に届けて自分は短時間で燃え尽きる、けなげな縁下の力持ちでもある。
新鋭のイプシロンは打ち上げ管制をパソコン2台で行う。省力化と低コストは、衛星打ち上げのビジネスで強みになるそうだ。夢と商売を兼ねた分野の市場規模は膨らむばかり。新たな打ち上げを、次は歓声で見送りたい。

 天声人語より