人の親密さ
ネットで書籍を買っていると、まさに自分好みの本を先方が薦めてくる。購入歴
が蓄積されるほど「おススメ」は琴線を心得てくる。
便利でいて、ふと不安になる親密さだ。相手は私をかなり知っている。その気な
ら、読書傾向から「思想調査」も可能だろう。本ばかりではない。ネットショッ
プ、電車のIC乗車券、クレジットカード、診察券、携帯-----。日々のあらゆ
る行動が電脳空間に記憶、蓄積されていく。
いまのところデータは散在している。しかし誰かが何の意図で寄せ集めれば、「
私」はたちまち裸にされてしまう。そんな電子網への危惧が募る時代に、政府の
「共通番号制度法案」が閣議決定された。
国民一人ずつに番号をつけて所得や年金、診療などの個人情報を管理する制度だ
が、政府の調査ではまだ8割の人が内容を知らない。管理が監視にならないか?
悪用の恐れは?すでにご存じで利点は承知の人も、心掛かりは様々あろう。
9年前には個人情報保護法ができた。人と人とのつながりを断ち切る方にアクセ
ルが踏まれ、人間砂漠の乾燥は進んだ。横の絆が細る中、与えた番号で国が個々
と縦につながる図も、思えばいびつだ。
大がかりな仕組みの総番号制を、時の権力に好きに使わせない歯止めも要る。番
号という「絆」が、もとの意味の「動物をつなぐ網」になっては困る。周知の議
論がもっと欲しい。

 天声人語より