枝豆の虫
 居酒屋やスナックで出る枝豆は、とてもきれいな緑色をしている。が、あんまりぼくはその枝豆が好きではない。冷たすぎるし、味もそっけなく、人工的野菜の感が否めないからだ。

 収穫したすぐの枝豆を普通にゆでると、さやの緑色が深く色落ちして、とてもじゃないけど、あんなに鮮明なグリーンにはならない。それにもともとの土の上で生育している枝豆自体が、あんなに鮮明な色じゃない。

 普段目にする外食での枝豆の多くは、中国からの輸入品で、冷凍ものだそうだ。冷凍の段階で重曹(炭酸水素ナトリウム)が加えられて、緑色がさらに鮮明になるのだそうだ。詳しいことはあまりわからないので、枝豆の鮮明な緑色について知っている人があれば教えて欲しい。ただ、その冷凍枝豆については、実用新案として特許に似たようなものがあり、他社が真似をすることはできないそうだ。

 7月は家庭菜園で枝豆が収穫できる季節だ。枝豆は病虫害が少なく、土質もあまり選ばないので栽培が容易だ。ご多分にもれず、我が家の菜園でも実が熟して、さやがぷっくらとふくらんでいる。とれたてをそのままゆでて食する枝豆は、どの主食よりも馳走になる。軽く味付けされた塩味が、湯気とともに芳香たるかおりをもたらし、口ざわりのあったかさは一日(いちじつ)の疲れをも癒す。とても食欲をそそるのだ。

 ときどき豆に虫がついているときがある。熱湯にゆでられて、小さな細い虫が豆の合わさで真っ白になっている。気がつくとさすがにその豆は食せずに捨てるのだが、気がつかずに食べてしまっているときがあるのではないか、と思ったりもする。

 都会の虫嫌いの女性なら、もし枝豆といっしょに虫を食べてしまったとわかったなら、口に入れようとしたとき虫を見つけたなら、さも薬物死するかのような発狂をするかもしれない。が、幼虫が食べる豆を食べて、また豆をかじった幼虫を食べて、雑食このうえない人類が食中毒を起したりするものか。

 枝豆とともにゆでられている幼虫を見て、微笑みながら思うことがある。スーパーで買って帰ったキャベツに青虫がついていると、電話で店長を呼び出し、『あなたのお店はなんという不潔な商品を売っているのですか』、とヒステリックにクレームをつける主婦がいる。即座に代替品を持ってお詫びに駆けつけないと、対応が悪いと、本社や消費者センターへ手厳しい非難の声が届く。

 青野菜に青虫がついていて当たりまえ、とぼくはいつも思っている。一匹のモンシロチョウも飛んでいないキャベツ畑、連作障害のでないトマト畑、幼虫の存在のあとが全くにない枝豆、そっちのほうが全く自然界の摂理から逸脱していると、ぼくは思う。キャベツ畑に蝶々が飛んでいない理由を、みなさんどうしてだと思う?

 だから、枝豆の虫が偶然にもぼくの胃の中で消化されようと、ぼくは一向に意に介さないのである。むしろ、その偶然に喜ぶべきだとさえ思っている。