全世界の一部があった頃
何時もの様に、駅に向かってテクテク歩いていた朝。
何かが無くなっていた。
私は駅に行く事を忘れ、消えていくシャボン玉を慌てて保存するかのように、その場所に向かって携帯を構えていた。
そんな事をしてもなんの意味も無いと思いながら、何枚も写真を撮った。

私が通った幼稚園。
もう顔も名前も憶えていないけど、好きだった先生と、女の子が居た幼稚園。
果ての無い、無限の平原に見えた園庭も、ほんの数歩で横切ってしまえるほど成長した今の自分。
肩も入らないジャングルジム。腰ほどしかない雲悌。
ずっと有り続けると思って居たからこそ、気にもしなかった毎日の風景。
ずっと消えないと思ってた想い出。
でも、その場所は既にショベルカーに蹂躙されていた。
門も門柱も取り払われた横の壁に、誰が書いたかチョークで描かれた落書きひとつ。
「バイバイ、バイバイヨウチエン!」