カラオケで歌うと泣きそうになる曲はいくつかある。「木綿のハンカチーフ」はその筆頭だ。
都会に出た自分の若いときにだぶるのか。残した恋人などいなかったのに。〈い、い、えあなた〉のリズムにぐっとくる。
「曲・筒美京平」の文字を音楽番組で何度見てきたことだろう。「ブール・ライトヨコハマ」「魅せられて」「スニーカーぶるーす」。あの曲もこの曲も、並べるとそれだけで歌謡史の一時代となる。作曲家の筒美京平さんが80歳の生涯を閉じた。
大学時代はジャズに熱中し、就職したレコード会社では洋楽を担当した。作曲家として立つとき作ったペンネームの原型は「鼓響平」。ヒットを重ね、曲を響かせた。
世に「古賀メロディー」などの言い方があるが「筒美メロディー」とはあまり聞かない。抒情あふれる曲からアイドルまで、作品の幅があまりに広いからか。大量の洋楽をきいてヒントを得た上で、実験するように曲を作っていったという。
新しいアイデアを盛り込み「ありったけのサービスをする」のが自分の曲作りだとインタビューで語っていた。そして「時代の色を感じるということが「一番大切」だとも。センスと努力が同居する音楽職人だった。
ツイッターに「木綿のハンカチーフ」を詠った太田裕美さんの言葉があった。訃報に触れ゜哀しくて哀しくて 涙が止まらない」と。救いになるのは、多くの曲が歌い継がれていくという確信だろう。

 天声人語より