総合的・俯瞰的。菅義偉首相が繰り返すその言葉は、どんな意味を持つのだろう。
辞書を引くと、総合は個々別々のものをまとめることで、俯瞰は全体を上から見ること。なるほど木ではなく森を見よ、ということか。
日本学術会議の会員候補から6人を除外したのは「総合的・俯瞰的な活動を確保する観点から」だと首相は説明する。6人はものごとの全体を見る力がない人たちだと言うに等しい。彼らの学問をどう吟味したら、そういう判断になるのか。
おそらくこの政権の言う総合や俯瞰は、辞書にある意味とはかなり違うのだろう。除外された人たちのこれまでの言動を見て、そう思う。たとえば行政法が専門の岡田正則・早大教授は沖縄の基地問題で異論を述べてきた。
辺野古埋め立てを強行するため、政府がその当否を「身内」の国交相に審査させようとした時には、「制度の濫用だ」と反対した。4自分の学問に基づいてはっきりものを言う。こうした行為が政権には「半総合的・半俯瞰的」と映るのか。
政府にうるさいことを言わないのが総合的であり俯瞰的であるとすれば、独立して政策提言をするという学術会議の役割をはき違えている。俯はうつむく、瞰は見下ろすの意味だが、「うつむいて黙れ」と言うかのようだ。
世の中には人にけむに巻く言葉があり、゜諸般の事情を勘案して---」などが典型だ。「総合的---」もその類だと首相は考えたのだろうが、けむに巻くどころか、政権の本質をあらわにしている。

 天声人語より