100年前の秋、国中がお祭り騒ぎに包まれた。「国勢調査は文明国の鏡」「調査に漏れては国民の恥」。
そんな標語が街に貼られ、初めての国勢調査を迎える。10月1日当日、人々は家で調査員を待ち構え、繁華街は静まりかえった。
佐藤正広著『国勢調査 日本社会の百年』によれば、当時は日露戦争と第1次大戦わ終え、愛国の気分が高まったころ。国民も「一等国と肩を並べるには欠かせない調査」と受け止めたようだ。
戦前から調査員が各戸を訪ね、住民と対面するのが基本だった。税の交付額や選挙区の区割りなどに欠かせないと政府は言う。質問項目には時代が映る。戦後すぐは引き揚げ経験の有無を、平成に入ると通勤時間を尋ねた。初婚かどうかを問うた年もあり、思わず赤面した。
神奈川県海老名市の大山麗子さんは、半世紀にわたって調査員を務めた。「時代とともにプライバシー意識が高まり、調査を拒む方が増えた。ずうずうしさがないと務まらない仕事です」。大正の昔とは違い、家の中まで国家に踏み込まれたくないという感覚が広まったのか。
5年に1度、21回目となる国勢調査が来週から始まる。対面できない例が増え、さらにコロナ禍も加わった今回は、オンラインや郵送による非接触型の回答が推奨されている。
統計調査は続けてこそ意味があろう。それでも、そのやり方は柔軟に変えていかざるをえない。100年先の人々は、いまの私たちの質問と方法のつたなさに赤面するのだろうか。

 天声人語より