だれもが幸せに健康にと願いをこめた「幸健」。被災地の復興を祈る「福光」。
福岡県大野城市の公共施設「心のふるさと館」ではいま、来館者投じた元号案を展示している。「自分の名から1字を取りました」とする「唯一」という案もある。
大野城市が元号案を募集するのは、晩年を地元で暮らした目加田誠・九州大名誉教授の業績を知ってもらう狙い。昭和末、新元号案を挙げるよう政府に求められた中国文学者である。
『詩経』をはじめとする古典をもとに「修文」など20を超す案を作った。素案を記した自筆のメモがいま同館で公開されている。無数の傍線や返り点が思案と推敲の跡を伝えて生々しい。
「平成」に敗れたが、「修文」は最終の3案に残った。「武器をしまい、学を身につける」という意味を込めたという。「目加田案には平和を願う思いが強い。せんじ、ち大陸で日本軍の横暴に心を痛め、わが子を亡くし、戦後は住まいも失った。そんな体験からでしょう」。メモの分析に加わった舟山良一・元市課長は話す。
新しい元号が1日に発表される。日常の用はすべて西暦で足りてしまうし、政府が時代の呼び名を改めたからといって急に世の中が動くわけでもない。それでも、この春の元号ブームは思いのほかにぎやかである。
元号とは何なのかと考えつつ、目加田氏の案をたどってみる。「和平」「敬冶」「修和」「長道」。日の目を見ることはなかったものの、そこには未来に託した願いが凝縮されていた。

 天声人語より