米国のベテラン政治家ジョン・マッケンジー氏の動画が話題になっていると聞き、インターネットで見た。
2008年の大統領選挙で共和党候補として民主党のオバマ氏と競った。動画は当時の選挙集会の模様で「オバマは信用できない。彼はアラブ人だ」と訴える参加者が映る。
「違う」。マケイン氏はきっぱり答えている。「彼は家族を愛する真っ当な市民だ。たまたま基本的な政策で私と違いがあるだけだ」。ブーイングを浴びつつ、こうも言った。「オバマ氏が大統領になっても恐れる必要はない。相手に敬意を表すのが、アメリカ政治のやり方だ」。
競いつつ品位を失わない。このなんでもない振る舞いが胸に響いてしまうのが、今の米国政治なのだろう。
トランプ大統領の就任から半年が過ぎた。相手構わず、いさかいを巻き起こす手法にうんざりする。先日は「司法長官はヒラリーをなぜ調べないのか」と選挙を戦ったクリントン氏への捜査をツイッターで求めた。前代未聞であろう。
メディアへの攻撃も健在で、CNNになぞらえた男性を殴りつける動画を自ら投稿した。かと思えば、「安倍明恵夫人は英語が話せず、ハローも言えない」と、他国のファーストレディーへの礼を失した発言も飛び出す。
脳腫瘍で闘病中のマケイン氏はおととい、法案審議のため久しぶりに議場に姿を現した。演説で「私たちは大統領の部下ではない。対等だ」と語っていた。米国の民主主義にそれでも残る真っ当さが、少しうらやましくなる。

 天声人語より