「腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動」。先日、福岡県久留米市のラジオ体操会に参加した。
朝6時半、幼児からお年寄りまで約200人と一緒に澄んだ空気を胸いっぱい吸った。
会は40年間、盆も正月も嵐の日も休むことなく続いてきた。もとは市内で青果店を営む飯田巧さんが家族4人で始めた。20歳で交通事故に遭い、左足が動かなくなった。リハビリを重ね歩く力を取り戻す。朝の仕入れの前に、体操を日課にしたところ、住民が徐々に加わった。
ラジオ体操の歴史は古い。昭和天皇の即位の大礼に合わせて1928年に始まり、戦時中は「国民精神総動員」の号令下、国威を高める場ともされた。戦後の占領当局は「300万人を一斉に動かす軍国日本の活動だ」と廃止を迫る。動きや伴奏曲を一新して再開された。
「私の生きがい、毎朝続けたおかげで大病が治った人も大勢います」と飯田さん。参加者の楽しみは飯田さん特製のしょうが湯である。皆勤精勤の表彰も魅力だ。昨年は7人が365日無休だった。
7月も下旬、各地の校庭や広場に体操の輪が広がる。筆者が輪に加わったのは久々だったが、冒頭のピアノの戦慄を聞いた瞬間、前進が自然に動き出した。我ながら不思議である。
会は一糸乱れずという雰囲気ではない。各人が体力や気分に応じて体を動かす。無理をしないことが長続きの秘訣化もしれない。締めくくりはもちろんいつもの深呼吸。「大きく息を吸い込んで吐きます。五、六、七、八」。

 天声人語より