いつからかハスは神秘的な音を立てて咲くものと思い込んでいた。
石川啄木に<しづけき朝に音立てゝ白き蓮の花さきぬ>という断定調の詩がある。博物学者南方熊楠も、ハスの開く音を聞きに出る習俗について論考を残した。
「本当に音がしますか、何時ごろなりますかという問い合わせをいただく。でも私ら職員は一度も聞いたことがありません」。埼玉県行田市にある公園「古代蓮の里」で働く山子学さんは話す。実際に聞くのは「花が散って葉に落ちた時のドサッという音」。風情の乏しい音らしい。
山子さんの実感によれば、ハスの名所とレンコンの産地はあまり重ならない。花で名高い地のレンコンは食感がいまひとつ。レンコン産地で花の群舞を見る機会も多くないという。天が二物を与えなかったのは人だけてせはないようだ。
行田市では1973年、ゴミ焼却場の建設地で桃色の大輪が見つかった。埼玉大の研究者らが調べ、推定1400年~3千年前の地層に眠っていた種子が掘削で目を覚ましたと推定した。
主産業の足袋作りが下り坂にあった市は1995年、ハスを核にした公園を開く。「ふるさと創生」をうたって全国の市町村に交付された1億円をいかした。街はにぎわいを取り戻す。
ふるさと創生と聞くと金塊や純金のこけしが浮かぶ。盗まれたり売られたり、哀れな結末も見た。ばらまき政治の見本のごとく語られることが多いけれど、将来を見すえて種をまいた自治体も少なからずあったようである。

 天声人語より