天安門事件が消し去られようとしている。
事実にすら近づけず、追悼も許されないのを憤る詩である。<すべての道が封鎖されている すべての涙が取り締まられている すべての花が尾行されている すべての記憶が洗い流されている>。中国の人権活動家、リウシアオボーさんが書いた。
1989年、民主化を求める運動が戦車に押しつぶされ、多くの命が奪われた事件、それが<忘れられ荒れはてた墳墓>になっている。非暴力の立場で運動に加わったリウさんには許せななったのだろう。
外国に活動の場を移す人が多いなか、何度弾圧されても中国からの発信にこだわった。2008年には、共産党の一党支配の放棄などをネット上で訴えた「08憲章」の起草の中心となり、国家政権転覆扇動罪に問われた。ノーベル平和賞を受けたのは獄中においてである。
08憲章には真っすぐで当たり前の言葉ばかりがある。公民が国家の真の主人となるべきである。憲法を真の意味での人権の保証書とする----。言葉の力を当局はおそれたか。
政治改革を強く求めつつ、「私には敵がいない」と訴え続けた。「最大の善意をもって政権の敵意に向き合い、愛によって憎しみを消し去ることができるように望んでいる」。裁判の判決を前に、そう書いた。
61歳の早すぎる死である。外国での治療もかなわなかった。「自由な中国が訪れることに対して楽観的な期待に満ちている」。リウさんの信じた未来が実現するのは、いつになるのだろうか。

 天声人語より