開園25周年を迎えた浜松市浜北区の「万葉の森公園」を訪ねた
万葉集に地元ゆかりの歌が4首あると伝える静かな庭園だが、目当ては「万葉食」。1300年前の食膳を堪能した。
赤米、ジュンサイの酢の物、タラの芽の揚げ物。地元の料理研究会「月草の会」の12人が万葉集や辞典を頼りに試作を重ねて再現した。園内の「万葉亭」で予約を受けて提供するほか、万葉弁当の販売もしている。
初夏の主菜は鯛。醤酢を添えていただく。「醤のくさみの消し方がわからず困った。万葉の1首がそのままレシピであると気づいて解決しました」と会長の野中正子さんは話す。
<醤酢に蒜搗き合へて鯛願ふ我にな見えそ水葱の羹>。蒜を加えた醤に鯛を浸して食べたい私に、食べ飽きた汁など見せないで----。この歌の通り、野蒜を刻んで醤に混ぜたら発酵臭がみごとに消えたという。
月草の会はこの豪華な膳を「貴族の万葉食」1500円と命名した。ほかに「庶民の食事」もあってこちらは60円。キビごはん、ワカメ汁、煮干し、納豆、漬物と献立はいたつた簡素である。今も昔も格差は食膳に表れる。
万葉集にその名を刻んだ額田王や柿本人麻呂は、貴族の膳をふだんから楽しんだことだろう。九州防衛のつらい任務を歌った防人たちには、庶民の膳さえぜいたくだったか。相聞歌や挽歌の印象がまさる歌集だが、読み直すとアユやウナギなど食材が次から次へ。万葉は食の知識の宝庫でもあったと知る。

 天声人語より