あの日を思い出すと、いまもいたたまれない気持ちになる。1995年1月17日、阪神・淡路大震災。
私は東京から神戸の警察署に電話取材していた。夜になったころだ。混乱の中で言ってしまった。「被災者の資料をFAXしてもらえませんか」。
しばらくの沈黙。論するように言葉が返ってきた。「記者さん、そりゃ無理です。電気が止まって、ろうそくの火で読んでいるぐらいですから」。ハッとして受話器の前で何度も頭を下げて謝った。
あの人はいま、どうしているのだろうか。当時の私には警察署が停電したままの大災害が想像できなかった。後の現地取材で知ったのは警察も甚大な被害を受けたということ。庁舎が崩れ、生き埋めになった人もいた。
兵庫署の刑事二課長だった山崎保さんもその一人。宿直室で仮眠中、ゴーッといった音に続き、コンクリートがギシギシときしみ、落ちてきたという。暗闇の中、頭からポタポタと血が滴ってきた。家族のことが脳裏に浮かぶ。このまま死ぬのか。いや死んでたまるか。怖かった。
救出されたのは4時間後。「震災は自分の弱さを教えてくれた」。逆境においてこそ、人の強さはわかる。「疾風に勁草を知る」を座右の銘に、灘署長などを経て2年前に退官した。
26年前の若い記者の愚かな失敗をわびると山崎さんは穏やかに言った。「仕方ないでしょう」。それぞれがたどる、あの日の記憶。私にとっては受話器越しに聞こえてきたあの声。思い返す。背筋を伸ばして。

 天声人語より
コメント (0)

きょうもコロナ
静岡だけが例外と思ってはなるまい。
異変ウイルス「市中感染」の可能性。
より幅広い調査・分析と情報開示を。
国民の私権制限を強め、行政の裁量は広げるコロナ改正法案。
それを許す国民との信頼関係が、菅内閣にあるか。

 素粒子より
コメント (0)

授業中に居眠りして、先生にこづかれる。そんなよくある場面もオンライン授業では勝手が違う。
〈学校のリモート授業寝落ちして起きたら画面に僕しかいない〉。中学3年の村上麟太郎さんが詠んだ。
毎年この時期に東洋大学から「現代学生百人一首」が届く。34回目の今回は、6万5千首余りの応募作の多くにコロナが影を落とした。思うにまかせない日々からも、軽やかな歌が生まれる。
〈画面越し毎日見てた担任がデカくてびびる初登校日〉中1藤原史奈。長い休校の後、初めての実物との出会いである。出席番号の奇数と偶数に分かれての分散登校もあった。〈「行ってきます」奇数の君からラインが来て「気をつけてね」と偶数の私〉高1深澤璃子。
度重なる外出自粛を、インドア派はこう受け止めた。〈政府から「不要な外出控えてね」時代が僕に追いついたようだ〉高専1渡邉綺。巣ごもり生活で親の知らなかった一面も見えた。〈テレワークの父の携帯鳴り止まない乾いた笑いおそらく上司〉高1井出眞之介。
好きな人の写真を持っていたい。そんな気持ちは昔も今も変わらない。〈体育祭カメラごしに見る君の顔保存したのは秘密にするね〉高3中村凛子。迷うこと、気になることも。〈プラトンもアリストテレスも教えてはくれない進路も君の気持ちも〉高1石川櫻子。
そして卒業する日が近づく。〈毎朝のあるようでない指定席いつもの顔ぶれあと何回か〉高3金地皐希。胸は少しのさびしさと、大きな期待と。

 天声人語より
コメント (0)

やっと国会開催
43日間。
長い冬眠から、ようやく政治が目覚める。
コロナ下の通常国会が開幕した。
停止中のGoToを延長する予算。
入院したくてもできない時に、入院勧告に従わぬ人への罰則。
長すぎた冬休みが、対策の遅れやズレを招いてはいないか。
検証の時だ。

素粒子より
コメント (0)

トリアージという言葉はフランス語が語源だ。
辞典をひもとくと「選別」の意味があり、羊毛やコーヒー豆を選別する際に使われたようだ。ナポレオンの時代に医学に応用された。
戦傷者のうち比較的軽傷の者を手当てして戦線に復帰させ、重傷者は後回しにする。どうもそんなやり方を指したらしい。現代でも大災害で全員を治療できない時、優先順位を決めるのをトリアージと呼ぶ。
そんな用語にとせきりとしたのが、一昨日の日本医師会会長の発言だ。「医療崩壊が進んでいる。トリアージをせざるを得ない状況に陥りかねない」。コロナ重症患者の急増に現場が追いつかないとの訴えである。
東京都では入院やホテル療養の人数より、行き先が決まらず調整中の人数が多くなっている。医療への需要を抑えるため、個々人が感染対策に努めるのは当然だ。一方で供給を増やす努力の方は果たして十分だろうか。
人口当たりの病床数は世界最高水準で感染者は欧州より少ない。それでも逼迫するのしなぜか。医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之さんが文芸春秋2月号に書いている。日本は臨機応変に医療資源をあてる機動性に欠けている。背景には医療が民間中心で国が命令できず、病院がライバル関係にあり連携が難しいことなどがあるという。
構造的な問題があるなら、物事を動かすための戦略と財源がいる。店や個人に罰則を科す議論より、優先すべきはことらではないか。現場で踏ん張る医療従事者を支えるためにも。

 天声人語より
コメント (0)